うみゆり日記(新)

錦見映理子の日記です

夏の夢

Kindleに落とした『小さな天体ー全サバティカル日記』を読んでから寝たせいだろうと思うが、加藤典洋さんが夢に出てきた。いろいお話できて嬉しかった。でもなぜか、話しながらもこの人には本当にはもう会えないのだとわかっている感じもあって、現実が半ば交じり合っているような不思議な夢だった。半分くらい起きていたのだろう。

もうお会いできないから恩返しができないけれども、私には今加藤典洋さんについて書く原稿があるのだからそれを全力で書けば少しは返せるかもしれない、起きたら頑張ろう、と思って目覚めると、もちろんそんな原稿などあるはずもない。

打ちのめされたような気分で起き上がり、ぼんやりカーテンを開けると、夏の緑が美しかった。

『小さな天体』を読んでいたのはそもそも加藤典洋さんのことを思い出していたからで、思い出していたのはおそらく、岡井さんの訃報があったからだと思う。私はこれで短歌の恩師と、小説に関して恩を受けた人、いずれも失ったのだな、と思っていたから。

加藤さんとは授賞式で、たった一度しかお会いしていない。でもそれは私にとっては一生の出会いだった。あんなにも温かい方だとは知らなかった。生涯忘れ得ない。こんなところに書くことでもないのだが、夢でお会いしたことだけメモしておく。

 

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今日、やっと、あるものをいったん書き終えた。予想より長くかかった。半年前に終わるつもりだったのに、全然うまくいかず、なぜうまくいかないのかわからずに苦戦した。

長くかかったものの、もうだめだと思っていた頃のことを思えば、本当によくこんな形に出来上がったなあと感慨深い。

まあ、これが人目に触れるものになるかはまた別の問題だが、ここまでやれば悔いはないな、と今日のところは思った。

明日からは次に向かって新しく始める。楽しみだな。